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当ブログは株式会社トミーウォーカー様が運営されるPBW,「TW2:シルバーレイン」のPCのサイドストーリーや、不定期日記などを掲載しています。知らない方は回れ右でお願いします。 なお、掲載されるイラストの使用権はプレイヤーに、著作権は作成したイラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカー様が所有します。無断使用はお断りさせていただきます。
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 ドアクダーの誇る諜報部は、灯の要求に素早く対応して結果を回してくれた。
一つ、数日前に件の女性と少女が喫茶店で会っている姿の目撃がある事、
一つ、その前後に関しての女性の足取りの一切は不明であった事、
一つ、少女の消息はある山野に分け入ったところでぷつりと途切れている事。

 ドアクダーは構成員とその知人関係に関して、侵害にならない程度の監視を施している。特に、そのルーツが重要な調査対象である灯には、いつ何時関係者が接触してくるか分からない都合上、護衛も兼ねて厳重に監視されている。その友人関係の護衛も然りだ。故に、街中を歩いている人間がその対象を確認出来る範囲に限って目が光っている。
 そんな中から抽出された情報であるため、報告は早かった。

 灯は未だに燻ぶる自分の心中と、それ以上に何かを得たいという本能の為、夜明けと共に活動し始めた。場所は、彼女が消息を絶った山野の入り口。姿を消したのが数日前なので、この付近に居るとは考え難いが、それでも、手掛かりがあるならここくらいしかないのだ。
 気配はごく普通の山野だ。生命の雰囲気が感じられる。しかし探している人物の僅かばかりの痕跡さえも、日が経っているので消えているのか発見できそうもなかった。

 灯は森の奥に分け入っていく。感覚を研ぎ澄ませ、注意深く進んでいく。山の、森の、中。かつて自分が生きてきた場所。自分が世界の一つだと教えてくれる場所。自分を受け入れてくれる場所。
 優しく温かく賑やかで、そして寂しい場所。誰であろうと、何であろうと受け入れてくれるが、同時に全てが孤独。昔は、それで良かった。でも今は、自分を望んでくれる人たちがいる。離れたくない場所がある。

 でもそれは、果たして自分の存在全てに対してのものなのか・・・。

 途中で山の気配が変わる。濃厚な、死と恨みの思念を感じる。人のほとんどが忘却期の果て、見る事敵わなくなったこの世にあってこの世ならざる物、それが灯の視界に入った。

 この辺り一体に充満し侵食している負の残留思念は、“力”を持つ灯に恨むをぶつけて来る。灯は長年の経験から、まず思念を観察する。強さは差ほどでもなく、数も1体。一人でも十分に対応出来る相手だった。残留思念を見つけた以上は、ここで討つ事を決めて思念に近づく。カードを目の前に掲げて吸血鬼の力を解放し、思念に詠唱銀を振り掛けて大きく一歩飛び退る。

 灯の見立てに狂いはなかった。しかし、誤算はあった。詠唱銀を吸収し、形を成すかに見えた思念は途中で固まるのを止め、辛うじて四足獣の姿を持ったコールタール状のゴーストへと変化した。
 ゴーストは声にならない声を挙げ、どろどろと地面に纏わり付く粘性の強いコールタールを飛ばしてくる。灯はチェーンソー剣「獣の牙」で弾き落とそうとするが、コールタールが触れた瞬間に回転動力炉の出力が落ちて、さらに触れた部分が一部溶解した。慌てて距離を取り、着地地点に投げ込まれたコールタールを獣の牙をつっかえ棒の様にして更に跳躍、木の枝の上に着地して剣を見る。コールタールに突き刺した部分の刃が溶け、直撃を受けた刃部分の半分を覆うカバーにも穴が開いている。
 灯は警戒を強め、自分目掛けて飛んできたコールタールを跳躍で避ける。相手の後ろに着地して地面に掌を叩きつける。瞬間、地面のいたる部分が針や刃となってゴーストに突き刺さり切り裂く。そうして縫い止められたゴーストにすかさず飛び掛る。従属種になってからの得意技、凄まじい衝動を力に変換して放つ吸血噛み付き!
 首筋に当たる部分に、牙がめり込むハズだった。だが、実際にめり込んだのは自分の顔。このゴーストには手応えがなかった。牙を突き立てようにも水を噛んだ様に逃げてしまい、エネルギーを吸収できない。それどころか、自分の顔全体を覆われるように封じられ、灯は今溺れている。もがき出ようとするが、相手の胴体は相変わらず掴む事も踏みしめる事も出来ず、逃れられない。
 その時、でたらめに押し込んだ左手が何かを掴んだ。それを手掛かりに一気に首を引っこ抜く。目にしてようやく分かったが、自分が掴んでいた物は自分が放ったジャンクプリズンで作られた大地の針だった。ようやく解放され、灯は目一杯空気を吸い込んですぐにその場から跳び退く。幸い追撃はなかったが、着地が上手く出来ずに倒れこみ激しく咳き込む。その間にコールタールの鞭が灯を打ち据える。数発は剣で弾いたが、体制が整っていない状況で凌ぎきる事は出来ない。右腕、左肩、左脇腹、右頬、それぞれにコールタールが命中し、防具を、皮膚を裂き溶かす。
 なんとか転がるようにして範囲から逃れ、木の幹に背中を預けて座り込み呼吸を整える。

「随分苦戦しているわね?」

 その木を挟んで後ろの方から声がした。灯の跳ね回る心臓が一際大きな鼓動を鳴らす。

「こんな所で戦ってるなんて、私の問いに答えが出たからかしら、灯君?」

 後ろからの女性の声に気を掻き乱されながらも、ゴーストの状態を見極める。吸血噛み付きのダメージは見えない。それどころか、ジャンクプリズンも効果がないように見える。直接的な攻撃は通じない様だ。そうなると、そういう相手にダメージを与えれるのは………「吸血」しかない。

「貴方には分の悪い相手ね。攻撃の通じない相手にどう戦うのかしら?純粋な吸血鬼なら、どうにかする手立てはあったわね。純粋な人間なら、もっと安定した従属種の力を引き出せていたのではないかしら?」

 言葉が刺さりつづける。自分は半人半吸血鬼である。その為、恩恵と弊害が等しく体に掛かってくる。人間の体に吸血鬼の血、それは筋力や身体能力を通常の人間より引き上げているが、その分、吸血鬼の持つ狂気は通常の従属種の比にならない。吸血鬼としての力は、やはりその他と比べて強力だが正気を保つのが難しく、結局はそれを活かしきれない。人間の理性と吸血鬼の狂気、そのどちらもが複雑に絡んでいて、理性が持つ「想いの力」と狂気が持つ「衝動の力」のどちらも不十分にしか引き出せない。
 それでも、自分は制御の難しい力と向かい合ってきた。どちらも捨てたくないから、選びたくないから。少ししか一緒に居れなかった母も、もう逢う事が出来ない父も、どちらかだけを選びたくない。自分の生を祝福してくれていた二人を、どちらも守りたかった。でも………、

 視界の端に、銀糸が翻った。

 長く美しい銀色の髪、透き通る白い肌、蒼色のドレスを着た美女が立っていた。首だけで灯を振り返り、紅の瞳を細めて優しく口を開く。

「しっかりなさい。惑わされては駄目よ。あなたは、あなたの答えをずっと持っていたでしょう?今は少し、前より色々分かるようになって疑ってるだけ。大丈夫、信じて御覧なさい。」

 心の芯から湧き上がる懐かしさ、表面の最も広い部分から湧き上がる懐かしさ。それは、血が見せた幻想なのか。そうだとしても、今、灯の目の前には自分を最も愛してくれた人が立っている。

「楽しさも苦しさも、どちらもあなたなの。そしてそれが、あなたとあなたの周りを照らす“灯り”になるわ。さぁ、お立ちなさい。あなたは、私達の自慢の息子なのよ。」

 自分の心が映した幻想かもしれない母の言う言葉は、しかし、そのまま自分の想いそのもの。母の言葉となって現れた信念は、灯の迷いや疑いを掻き消していく。木に背中を押し付けながら、よろよろと立ち上がる。

「あなたなら出来るわ。私達の、強さも弱さも併せ持っている、あなたならば。」

 幻想の母は前を向き、ゴーストへゆっくりと人差し指を掲げる。
 灯はチェーンソー剣を手放す。カラン、と乾いた音を立てて剣が地面に横たわる。拳法着の着脱可能な袖の右側を左手で握り締める。一息に右袖を外してそのまま地面に落とす。肩から露になった右腕には、先程の攻撃の傷跡が生々しく残っている。相手を見ずにその右手を腰溜めに構え、姿勢を落とす。

「お行きなさい、私達の希望の子、スィラン(陽)。」

 灯は顔を俯かせたまま飛び出すと、抜き手に構えた右手をゴーストに突き入れた。手は手首までゴーストの体に埋まっていく。

「破れかぶれの攻撃じゃ、倒せないのじゃない………の…、何よ、これ…!?」

 右手を突き刺したまま、灯が勢い良く顔を上げる。その瞳は、父譲りの銀光を湛えながらも母の様に紅く輝いていた。

「うぅぅああああああ!!!」

 灯の叫びと同時に、白い蝙蝠が翼を広げるように右手を中心に風が巻き起こる。風は灯の右腕を撫でる様に吸収され、傷が次第に癒されていく。同時にゴーストは力を失っていく。

「俺は…こうもりだ!人間でも…吸血鬼でも、ある。それが…俺だから、選ばない!俺は…これからも、俺のままだ。誰も…俺を受け入れなくても、俺が…全部の、“血”になる!」

 ――――血は生命そのもの、いや、ゴーストにもあるということは“存在”そのもの。二つの別種な存在を体と精神に内包し、他者の存在を血肉に変える自らの“存在”。それはすなわち、自分が全てを受け入れるという事に他ならない。故に、自分は全ての“血”になれる。――――

 一切のエネルギーを吸い尽くされ、枯れるようにゴーストは世界に還元された。

「そんな……、牙以外から、それも触っただけで吸収出来るなんて…従属種の範疇じゃないわ……。」

 呆然と灯を見る女性。膝を着いて肩で息をしていた灯が、ゆっくりと振り返る。衝動のため、まだ瞳色は紅と銀を彷徨っている。

「俺は…選ばなかった。お前…俺を、どうする?」

 息も絶え絶えに、灯は構えを取る。それを見て、自失から立ち直った女性は笑みを浮かべた。

「どうもしないわ。こっちの目論みは失敗だから、何かをする意味がないわね。貴方に個人的な興味はあるけど、また会えるかはその時次第ね。」

 茶化すような前までの調子で話しかける。居住まいを正して、女性は灯に告げる。

「貴方が探してる子は、そのうち会えると思うわ。割と近いうちに、ね。」

「どういう…ことだ!」

「そんな気がするだけ。それじゃ、縁があったらまた会いましょう?」

 手を軽く振って女性は灯に背を向けて木の裏に入って行く。灯が追いかけるが、やはりその姿はどこにもなかった。その場に残されたのは、疲労困憊の灯一人だけ。灯はゆっくりと一歩を踏み出そうとして…、

「よう…こ……、今、い…く………。」

 蝙蝠になると誓った小さな翼は、その場に倒れこんだ。
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