当ブログは株式会社トミーウォーカー様が運営されるPBW,「TW2:シルバーレイン」のPCのサイドストーリーや、不定期日記などを掲載しています。知らない方は回れ右でお願いします。
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「あぁ、あの子はここ数日来てないよ?」
彼女が通うキャンパスのクラスに直接会いに行って、返ってきた返事がこれだった。通路から教室を覗いてみても、見当たらなかった為にクラスメイトに尋ねてみた結果だ。
「そうか…わかった、ありがとう。」
頼んだ人にお礼を言ってその場を後にするが、どうにもしっくりこない。灯の知る限り、何日も学校を休むような子ではない。灯が携帯電話を持っていないとはいえ、自分に無言でいなくなるとは考えたくない。ならば、よく話をしてくれた場所を回ってみようと思い立った。
散歩コース、書店、行きつけの喫茶店、そして、天体観測所……。
聞いた限りの場所を、聞いた順番に巡り歩いてきた。距離的には、中学生男子が移動できる分を大幅に超えているが、灯にそんなことは関係ない。
さすがにそれだけ歩くと、日も暮れてきてしまう。
どこにも彼女の姿を見つけることが出来ず、灯は途方に暮れる。近代的な連絡手段と方法がピンと来ない灯には、自分の足で探すしか手がなかったから、ほとんど手詰まりだ。
「どあくだーに…聞いてみるか。」
自身が所属している、秘密結社ドアクダーの諜報部なら、彼女の足取りを追えるかもしれない。どうにも気が逸って、少しでも早く帰ろうと天体観測所前の公園を出ようと走る。
「そんなに急いでどこに行くの、君?」
掛けられるのは女性の声。
灯は警戒しながら振り返る。もう直暗くなるというのに、サングラスを掛けた女性。いや、それは灯からすればどうという事はない。
問題なのは、女性の放つ雰囲気。そしてなにより、灯の背後を取ったこと。
気配察知能力は、今まで生きてくるために磨き上げられ、野生動物のそれに近い程鋭敏だ。それを掻い潜ったのだ。これは、相手が明確にこちらの背後を取ろうと意図した事を示している。
「お前…誰だ。俺に…何の用だ?」
底知れないものを感じているため、威嚇がちに質問を投げ掛ける。
女性はそれに動じる様子もなく、気軽に話しかけてくる。
「君、中途半端だね。苦労してるでしょ、それ?」
灯は女性が何を言っているのか分からず、それを顔に出してしまった。
意を得たりと女性が続ける。
「人間のお父さんと、人間じゃないお母さん。どちらかの性質だけを受け継ぐのが普通だけど、君の場合は…見事に半分なんだね、御津乃廉灯君。」
灯は、自分の中で何かがひび割れる音を聞いた。本来、ごく一部しか知らないはずの自分の出自を、目の前の女性は知っている。もしかして、自分以上に………。
「何を…知ってる………俺の、何を…知ってる!」
「なんでも知ってるわよ、灯君。人間の肉体に理性、吸血鬼の魔力と狂気、制御しにくいでしょう?私はね、それを楽にする方法を知ってるから、教えて上げに来たのよ。」
「楽にする…方法?」
女性は灯の反芻に笑みを浮かべ、こう続けた。
「その狂気の元を、吸血鬼の血と力を取り除くのよ。」
そういって女性はバッグに手を入れ……、その瞬間、灯は踊りかかった。
一蹴りで距離を詰め、飛び上がる用に開いた右手で抜き手を放つ。が、貫いたのは何もない空間のみ。
女性は先程と同じ様に、気配を完全に消して灯の背後に立っていた。
「ふふ、中々だけど普通の力じゃ触れないわよ?」
振り向く動作とバックステップで距離を取り、灯は女性を見据える。
女性は余裕の態度を崩さず、残念そうな顔をした。
「あら残念。灯君は人間になりたくないのね。そんなに苦しそうなのに、どうしてなの?」
「俺は…吸血鬼だ!」
灯の叫びはすっかり日が落ちた空に吸い込まれ、輝き始めた星々散らされる。
「じゃ、吸血鬼になりたいの?」
灯は言葉に打ち据えられ、胸に強烈な痛みが走るのを感じた。
その様子を見ていた女性は呆れたように腕の左右に広げる。
「本当に中途半端なのね。人にも吸血鬼にもなれない、まさに蝙蝠ね。その服と一緒。」
女性は表情を厳しくして、さらに言葉の鞭を振り翳す。
「いつの日か、どちらかを決めないといけない日が、必ず来るわ。その時、君はどうするのかしらね?人間を選ぶ?それとも、吸血鬼として陰に生きる?」
苦悶の表情を浮かべて胸を押さえる灯を一瞥した後で踵を返し、女性は歩き始める。少しいった所で立ち止まり、
「この前の狐さんは人間への道を歩き始めたって言うのに。」
灯の直感が何かを告げる。
「お前!…もしかして、…」
「また会いましょう。その時までに、答えを決めておいてね。」
灯の言葉を遮って、そのまま闇に消えていく女性。灯は追いかけるが、どこにもその姿は見つけられなかった。
「俺…人間か、吸血鬼…決める……。とうちゃか…かあちゃか、決める?」
自分の中の2つが鬩ぎ合う。親しい友人たちが知らない事、言ってない事。自分は人間でも吸血鬼でもないという事実。自分はそのままでありたいと思っているが、みんなはそれを許してくれるのだろうか?許されなかったら、自分はみんなの傍に居れるのだろうか?
――怖い
サバイバルを生き抜いた経験は、自己崩壊を起こしかねないこの疑問を、棚上げする方法を導き出し、そちらへ意識を逸らせる。
「さっきのやつ…探さないと。手掛かり……。」
酷くのろのろとした動きで、灯は暗い夜道を歩き始めた。
彼女が通うキャンパスのクラスに直接会いに行って、返ってきた返事がこれだった。通路から教室を覗いてみても、見当たらなかった為にクラスメイトに尋ねてみた結果だ。
「そうか…わかった、ありがとう。」
頼んだ人にお礼を言ってその場を後にするが、どうにもしっくりこない。灯の知る限り、何日も学校を休むような子ではない。灯が携帯電話を持っていないとはいえ、自分に無言でいなくなるとは考えたくない。ならば、よく話をしてくれた場所を回ってみようと思い立った。
散歩コース、書店、行きつけの喫茶店、そして、天体観測所……。
聞いた限りの場所を、聞いた順番に巡り歩いてきた。距離的には、中学生男子が移動できる分を大幅に超えているが、灯にそんなことは関係ない。
さすがにそれだけ歩くと、日も暮れてきてしまう。
どこにも彼女の姿を見つけることが出来ず、灯は途方に暮れる。近代的な連絡手段と方法がピンと来ない灯には、自分の足で探すしか手がなかったから、ほとんど手詰まりだ。
「どあくだーに…聞いてみるか。」
自身が所属している、秘密結社ドアクダーの諜報部なら、彼女の足取りを追えるかもしれない。どうにも気が逸って、少しでも早く帰ろうと天体観測所前の公園を出ようと走る。
「そんなに急いでどこに行くの、君?」
掛けられるのは女性の声。
灯は警戒しながら振り返る。もう直暗くなるというのに、サングラスを掛けた女性。いや、それは灯からすればどうという事はない。
問題なのは、女性の放つ雰囲気。そしてなにより、灯の背後を取ったこと。
気配察知能力は、今まで生きてくるために磨き上げられ、野生動物のそれに近い程鋭敏だ。それを掻い潜ったのだ。これは、相手が明確にこちらの背後を取ろうと意図した事を示している。
「お前…誰だ。俺に…何の用だ?」
底知れないものを感じているため、威嚇がちに質問を投げ掛ける。
女性はそれに動じる様子もなく、気軽に話しかけてくる。
「君、中途半端だね。苦労してるでしょ、それ?」
灯は女性が何を言っているのか分からず、それを顔に出してしまった。
意を得たりと女性が続ける。
「人間のお父さんと、人間じゃないお母さん。どちらかの性質だけを受け継ぐのが普通だけど、君の場合は…見事に半分なんだね、御津乃廉灯君。」
灯は、自分の中で何かがひび割れる音を聞いた。本来、ごく一部しか知らないはずの自分の出自を、目の前の女性は知っている。もしかして、自分以上に………。
「何を…知ってる………俺の、何を…知ってる!」
「なんでも知ってるわよ、灯君。人間の肉体に理性、吸血鬼の魔力と狂気、制御しにくいでしょう?私はね、それを楽にする方法を知ってるから、教えて上げに来たのよ。」
「楽にする…方法?」
女性は灯の反芻に笑みを浮かべ、こう続けた。
「その狂気の元を、吸血鬼の血と力を取り除くのよ。」
そういって女性はバッグに手を入れ……、その瞬間、灯は踊りかかった。
一蹴りで距離を詰め、飛び上がる用に開いた右手で抜き手を放つ。が、貫いたのは何もない空間のみ。
女性は先程と同じ様に、気配を完全に消して灯の背後に立っていた。
「ふふ、中々だけど普通の力じゃ触れないわよ?」
振り向く動作とバックステップで距離を取り、灯は女性を見据える。
女性は余裕の態度を崩さず、残念そうな顔をした。
「あら残念。灯君は人間になりたくないのね。そんなに苦しそうなのに、どうしてなの?」
「俺は…吸血鬼だ!」
灯の叫びはすっかり日が落ちた空に吸い込まれ、輝き始めた星々散らされる。
「じゃ、吸血鬼になりたいの?」
灯は言葉に打ち据えられ、胸に強烈な痛みが走るのを感じた。
その様子を見ていた女性は呆れたように腕の左右に広げる。
「本当に中途半端なのね。人にも吸血鬼にもなれない、まさに蝙蝠ね。その服と一緒。」
女性は表情を厳しくして、さらに言葉の鞭を振り翳す。
「いつの日か、どちらかを決めないといけない日が、必ず来るわ。その時、君はどうするのかしらね?人間を選ぶ?それとも、吸血鬼として陰に生きる?」
苦悶の表情を浮かべて胸を押さえる灯を一瞥した後で踵を返し、女性は歩き始める。少しいった所で立ち止まり、
「この前の狐さんは人間への道を歩き始めたって言うのに。」
灯の直感が何かを告げる。
「お前!…もしかして、…」
「また会いましょう。その時までに、答えを決めておいてね。」
灯の言葉を遮って、そのまま闇に消えていく女性。灯は追いかけるが、どこにもその姿は見つけられなかった。
「俺…人間か、吸血鬼…決める……。とうちゃか…かあちゃか、決める?」
自分の中の2つが鬩ぎ合う。親しい友人たちが知らない事、言ってない事。自分は人間でも吸血鬼でもないという事実。自分はそのままでありたいと思っているが、みんなはそれを許してくれるのだろうか?許されなかったら、自分はみんなの傍に居れるのだろうか?
――怖い
サバイバルを生き抜いた経験は、自己崩壊を起こしかねないこの疑問を、棚上げする方法を導き出し、そちらへ意識を逸らせる。
「さっきのやつ…探さないと。手掛かり……。」
酷くのろのろとした動きで、灯は暗い夜道を歩き始めた。
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